移動

コンビニの自動ドアをくぐって夜の暗い道路と空を見ていると、このままバイクにでも跨ってどこかへ走りたい気持ちになった。以前はたまにそういうことをしていたのだけれど、ここ数年は機会がなかった。行き先はどこでも良いので、道中に地図でも眺めて適当にでっち上げる。大事なのはどこへ行くかではなく、どこかへ行くことなのだ。出来るだけどこへ行くのかわからない方が良いし、どうやって行くのかもわからない方が良い。本当は自転車でも歩きでも電車でも良いのだけど、このまま適当に進んでいたらどこに行き着いてしまうのだろうという不安と期待の隙間を縫いながら進んでいくのにはバイクくらいがちょうどよい。ひた走った後の満足と半ばの後悔に浸りながら、その後のことを考えるのも好きだ。ゆくゆく帰り着いた頃を思うと、ちょうど無計画な山行に一段落付けて野営する時と同じ、安心と充足感を予感することができる。巣を離れた動物もきっとこんなふうなのだろう。